2005年 第5回表面力セミナー
(1) 膜小胞の形態変化で働く力
(独)科学技術振興機構 宝谷紘一
生物細胞の構造は機能と密接に関連している。具体例として神経細胞では電気信号を伝えるために、非常に多数の細長い膜突起が出ている。細胞の構造と機能 をリポソームをモデルとして用いて研究した。リポソーム内部での微小管形成による膜の変形の観察と、その理論解析よりリポソーム内部に内圧が存在すること が示された。さらに、光ピンセットにより、リポソーム内部に取り込まれたポリスチレン粒子を操作することで、リポソームが膜状の突起を形成するのに15 pNの力が必要であることが分かった。
(2) 展開単分子膜における自己組織化構造の形成と制御
宇都宮大学工学部 飯村兼一
両親媒性分子の水面展開単分子膜における規則構造の形成は、古くから学術的興味の対象であり、また機能化の観点からも注目を集めてきた。後者の観点で は、膜分子の構造と配列、膜の形態の関係を明らかにし、分子設計や条件の最適化が重要である。両親媒性分子の疎水鎖として飽和炭化水素、シス不飽和炭化水 素、部分フッ素化炭化水素をもつ脂肪酸の展開単分子膜の分子構造と配列、モルフォロジーの関係について詳細に研究した。
(3) コロイドプローブ原子間力顕微鏡法による生体分子間相互作用の研究
東北大学多元物質科学研究所 鈴木武博
生体内の酵素反応では様々な特異的相互作用が関与していると考えられているが、その分子機構が複雑なため明らかになっていない部分が多い。本研究では新 たな生体反応研究法としてコロイドプローブAFM法を用いてLangmuir-Blodgett法により測定表面を調製し、複雑な生体反応である酵素反応 の分子機構を評価した。また本法を抗原-抗体反応に適用し、1アミノ酸残基の違いを相互作用力の違いとして検出することに成功した。
(4) エタノール-シクロヘキサン二成分液体中におけるガラス表面に形成されたエタノールマクロクラスターの1H-NMR法による研究
東北大学多元物質科学研究所 遠藤 聡
非極性溶媒中の水素結合性分子がシリカ表面に水素結合により厚み数10~100 nm以上にも及ぶ規則構造(分子マクロクラスターと呼ぶ)を形成することを見出してきた。ガラス球を加えたエタノール/重シクロヘキサン混合溶液中の 1H-NMRスペクトルを測定し、ガラス表面およびバルク中のエタノールクラスターの動的な振舞いを調べた。その結果、従来提案している、エタノール濃度 上昇に伴い、表面のエタノールマクロクラスターとバルク中のエタノールクラスターの間でエタノール分子の交換が起こるというモデルを支持する結果が得られた。
(5) 表面錯体上での積層反応を利用した機能化
-多積層ナノ分子薄膜およびDNAナノワイヤの形成-
中央大学理工学部 芳賀正明
固体表面上での分子ユニットの自己組織化膜形成とそれに続く逐次的な「表面配位化学」を利用して、精密に制御された積層構造を作製することが可能であ る。多脚型配位子をアンカーとして固体表面に第1層を配向固定化し、さらに錯体形成により分子1層単位で逐次的に分子層を積層させた。またDNA二重らせ んへのインターカーレーター部位を持つ錯体分子を固体表面に疎に配列させて固定し、DNA二重らせんを捕捉することに成功した。これはナノ配線への要素技 術の一つになり得ると考えられる。
(6) 酸化物ナノストランドの自己組織化
(独) 物質・材料研究機構 一ノ瀬 泉
脂質膜やタンパク質の組織構造形成、イモゴライトのような無機物のナノチューブ構造形成などが自発的に起こる現象であることが知られている。今回、硝酸 カドミウム水溶液にNaOHを添加してpHを変化させるだけで直径1.9 nm、長さ数μmにも及ぶ水酸化カドミウムナノストランドを可逆的に形成されることを見いだした。このナノストランドの表面は正電荷をもち水溶液中によく 分散し、またDNAなどの負電荷をもつ分子を捕捉することも出来る。
(7) 固-液界面におけるアミド分子の自己集積を用いたナノ重合薄膜の調製
東北大学多元物質科学研究所 福地 功
非極性溶媒中の水素結合性分子がシリカ表面に水素結合により厚み数10~100 nm以上にも及ぶ規則構造(分子マクロクラスターと呼ぶ)を形成することを見出してきた。この現象の応用として、N-イソプロピルアクリルアミド (NIPAAm)マクロクラスターのその場光重合により、nm厚みで温度応答性の濡れ変化を示すポリ(NIPAAm)ナノ薄膜調製に成功した。さらに、吸着過程と重合過程で溶媒を置換することで、従来は分子マクロクラスターの厚みで決まっていた膜厚を自在に制御する方法を開発した。
(8) 液体超薄膜のナノトライボロジー特性
花王(株)構造解析センター 山田真爾
2表面間に挟まれた液体はナノメートルレベルの厚みにあると分子運動性が減少し、実質的に固化することが知られており、これはナノスケールの潤滑システ ムを設計する上で重要な問題の一つである。今回、表面力測定装置(SFA)を用いて、種々の液体超薄膜のナノトライボロジー特性の評価を行った。膜厚が変 化しなくなるまで減少すると、分子はガラス状態となり、粘度のせん断速度依存性は分子全体の化学特性に依存せず、ほぼ単一の粘度-せん断速度に重なること が分かった。
(9) 限定空間における色素/液晶系のずり共振測定
東北大学多元物質科学研究所 水野裕保
これまでに開発しているナノ共振ずり測定法およびFECO分光法を用いて、雲母表面間に閉じ込められた色素/液晶2成分系の配向構造化挙動を調べたとこ ろ、表面間の距離の減少に伴い(10 nm以下)、色素(Sudan Black B)が表面間に濃縮し、静止摩擦から動摩擦へと変化するせん断挙動が観測された。また雲母表面に調製した液晶配向膜間の液晶(6CB)の配向構造化挙動を 調べたところ、雲母表面間より遙かに長距離から液晶の粘度上昇が観測された。また粘度は配向とせん断方向に依存して大きく変化した。