栗原和枝研究室

東北大学 未来科学技術共同研究センター(NICHe)多元物質科学研究所

表面力セミナー

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2006年 第6回表面力セミナー

(1) メカノケミストリー ~誰でも出来る固相反応

東北大学多元物質科学研究所 齋藤文良
近年、原子、分子レベルで構造制御されたナノ粒子が種々の分野で重要視されている。ナノ粒子作製法として、気相法、液相法が一般的であるが、操作が簡単 な粉砕法にも注目が集まっている。粉砕で達成できる粒子サイズの限界はサブミクロンといわれているが、粉砕は微視的には結合の機械的切断であり、それによ り生じた活性面を通したメカノケミカル(MC)反応を利用するとナノ粒子の作製が可能である。実際に粉砕法を用いた半水石膏の合成、カオリナイトからの水 硬性粉体の製造、カオリナイトからのゼオライト合成、種々の固相合成、廃棄物からの有価物回収や有害物の無害化への応用例についての発表、討論を行った。

(2) 超分子立体構造の幾何学的理解と予測;炭素鎖分子の情報と表現

大阪大学大学院工学研究科 宮田幹二
1940年代にX線結晶構造解析に基づき、ホスト分子にゲスト分子が非共有結合で取り込まれるという包接化合物の構造概念が確定した。有機包接結晶は 1980年代頃からしだいに分子設計に基づいて合成されるようになり、多種多様なものが得られている。包接結晶の基本的な立体構造と空間効果、典型例につ いて概説し、具体的な例としてステロイド包接結晶における多形現象と分子認識について詳細な発表と討論を行った。

(3) 共振ずり測定を用いた色素/液晶系ナノ薄膜の研究

東北大学多元物質科学研究所 阿久津高志
界面や限定空間における分子の挙動は、摩擦・潤滑、触媒など様々な分野で重要である。これまでに開発しているナノ共振ずり測定法およびFECO分光法を 用いて、雲母表面間に閉じ込められた色素/液晶2成分系の組成と配向構造化挙動の距離依存性を調べた。色素としては、NK76, NK79, Peryleneを用い、液晶としては6CBを用いた。色素の種類により、雲母表面間への濃縮の程度が異なり、これは単純な雲母表面への吸着とは傾向が異 なり、6CBとの親和性や構造の効果によると考えられる。ずり測定より構造化の安定性について知見も得られた。

(4) ナノ共振ずり測定の新しい展開

東北大学多元物質科学研究所 佐久間 博
表面力測定、ナノ共振ずり測定では、白色光を表面に垂直方向に照射し、表面間で多重反射することで生じた等色次数干渉縞の解析により表面間距離を高精度 で決定している。この方法では試料(基板および液体)は可視光に対して透明という制限があった。そこで、一方の表面の裏面で反射させたレーザー光の位相変 化より表面の変位を計測する機構を開発し、ナノ共振ずり測定法に組み込むことで不透明試料のずり測定が可能な装置を開発した。また振動の自然減衰過程を高 速フーリエ変換することで共振カーブを短時間で得る方法の開発を行った。

(5) 温度応答性表面での流体on-off制御と共振ずり測定による表面解析

早稲田大学理工学部 井戸田直和
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド, NIPAAm)は32℃付近にLCSTをもち、この温度を境に膨潤-収縮、あるいは親水-疎水性の転移を示すため、温度応答性の機能性材料として注目され て、ドラッグデリバリー、細胞培養表面、再生医療などに応用されている。ここでは、内径200μmの毛細管の内壁を厚み100 nm程度のポリ(NIPAAm)膜で被覆することで、LCST以下の温度(膨潤状態、親水性)において管内の水の流れを止め、LCST以上の温度(収縮状 態、疎水性)では流れるようにする可逆的なon-offバルブを実現出来ることを示した。これはポリ(NIPAAm)の水和が大きく関与してると考え、ナ ノ共振ずり測定によりポリ(NIPAAm)膜上の水の特性の評価も行った。

(6) 右と左の界面化学

(株)資生堂 リサーチセンター 坂本一民
アミノ酸は生命活動の維持に不可欠な物質であると同時に多様な機能性素材の原料としても有用である。種々のアシルアミノ酸を合成し、それらの両親媒性物 質としての特性を構造活性相関の観点から研究した。特にソフトな自己組織体としての性質と、そのハード構造への展開について検討した。ソフト系自己組織体 としては高次不斉を持つミセル溶液、親媒性コレステリック液晶を、またハード系としてそれらから転写して得られる不斉構造を有するメソポーラスシリカにつ いて紹介した。

(7) Genetic characterization of the natural SigB variants found in clinical isolates of Staphylococcus aureus

筑波大学大学院人間総合科学研究科 森川一也
細菌の転写は1種類のRNAポリメラーゼが担っており、そのサブユニットの1つであるシグマ因子を換えることによって異なるプロモーター配列を認識し、 発現する遺伝子のパターンを変化させる。院内感染菌として世界的に問題となっている黄色ブドウ球菌では、現在3種類のシグマ因子(SigA, SigB, SigH)の存在が確認されている。これらのシグマ因子のうち、様々な環境変化に応答した転写制御に関与し、メチシリン高度耐性における必須因子である SigBに関して得られた知見について紹介した。

(8) アフィニティタグを用いたタンパク質固定による相互作用測定

東北大学多元物質科学研究所 山口隆広
ヒトゲノムの解読がなされ、ポストゲノム研究としてプロテオミクスに対する関心が集まっている。しかし、タンパク質の特定の活性部位の相互作用の評価は 少ない。特異的相互作用を様々な条件下で定量的に評価する方法として用いられ始めている方法として、原子間力顕微鏡(AFM)が挙げられる。この場合、目 的のタンパク質の相互作用部位を表に向けて配向させて固定化することが重要である。ここでは、アフィニティタグとして、グルタチオン-S-トランスフェ ラーゼおよびマルトースバインディングドメインを用いたタンパク質固定化法を開発し、RNAポリメラーゼのσ因子であるSigBとanti-sigB因子 であるRsbW間の相互作用評価を行った。

(9) 水素結合性の官能基で修飾した金基板に形成したエタノールマクロクラスター

東北大学多元物質科学研究所 遠藤 聡
非極性溶媒中の水素結合性分子がシリカ表面に水素結合により厚み数10~100 nm以上にも及ぶ規則構造(分子マクロクラスターと呼ぶ)を形成することを見出してきた。ここでは、金蒸着膜上に末端にOH, COOH基をもつアルカンチオールの自己組織化膜を調製し、その膜上でのエタノールマクロクラスター形成とその厚みを表面プラズモン共鳴(SPR)により 評価した。5~6 nm程度の厚みのエタノールノマクロクラスター形成が示された。さらにOH (COOH)とCH3を末端にもつ分子の混合膜を調製し、OH(COOH)基の密度の効果についても検討を行った。

(10) 1H NMRによるプロパノールの界面マクロクラスターの研究

東北大学多元物質科学研究所 細浦宇敏
これまでの研究でシクロヘキサン中のシリカ表面において、1-プロパノールは直鎖状のマクロクラスターを、2-プロパノールは環状のマクロクラスターを 形成することが分かってきている。ここでは、H1-NMRを用いて、シクロヘキサン中に分散させたガラス球表面に形成される1-プロパノールと2-プロパ ノールのマクロクラスターのダイナミクスをピークの分裂・線幅の変化、および緩和測定より評価した。1-プロパノールと2-プロパノールのどちらも濃度上 昇に伴い、バルク中のクラスターと表面のマクロクラスターとの間で分子交換が起こることを示す結果が得られた。

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